東京地方裁判所 昭和37年(ワ)2018号 判決
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【事実】<前略> 一 原告の特許権
原告は、次の特許権の権利者である。
特許番号 特許第二九〇、一〇九号
発明の名称 冷却した液体の自動販売機
出 願 昭和三十三年七月二十五日
出願公告 昭和三十六年六月十七日
登 録 同年十二月十四日
二 特許請求の範囲
本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の項には、別紙特許公報該当欄記載のとおり、「機枠内の下方に冷却管を設けた貯液タンクと、該タンクに吸込側を連通した常時運転の押上ポンプを装置して、そのポンプの吐出側末端口が貯液タンクに通じ、該タンク内で冷却せられた販売用液を押上ポンプにより強制的に絶え間なく上方へ押上げて再び貯液タンク上に還える循環流を生じさせると共に、その循環流から適宜の定量放出装置を介して、分岐した販売用液放出の吐液口を機枠外に開口させると共に、投入硬貨によつて発動する販売液放出作動体の作動により前記吐出口に一定量の販売液放流を生じさせるように構成したことを特徴とする冷却した液体の自動販売機。」と記載されている。<後略>
【判決理由】一 原告の特許権
原告がその主張の特許権の権利者であること及び右特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の項の記載が、原告主張のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。
二 本件特許発明の要部等
当事者間に争いのない前掲明細書における特許請求の範囲の項の記載及び成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)によれば、次の事実が認められ、これを左右すべき証拠はない。
(一) 本件特許発明は、冷却した液体の自動販売機の構造に関するものであり、ジユース等の飲料水を機枠内で冷却して保有し、適時販売作動を行うことを目的とし、その要部は、
(イ) 機枠内の下方に冷却管を設けた貯液タンクと該タンクに吸込側を連通した常時運転の押上ポンプを装置し、そのポンプの吐出側末端口が貯液タンク上に通じて、該タンク内で冷却された販売用液を、押上ポンプにより強制的に絶え間なく上方へ押し上げて再び貯液タンク上に還える循環流を生じさせること、
(ロ) その循還流の中途から、適宜の定量放出装置を介して分岐した販売用液放出の吐液口を、機枠外に開口させること、
(ハ) 投入硬貨によつて発動する販売液放出作動体の作動により、前記吐出口に一定量の販売液放流を生じさせるようにすること、
にあること。
(二) 本件特許発明は、右(一)の構造により、次の作用効果をあげていること。
(1)右(一)の(イ)において、機枠の下方に貯液タンクを設けたことにより、機枠の重心を下げて、その安定を良効ならしめ、販売用液の強制的循環流を生じさせることにより、貯液タンク内の販売用液の冷却温度を平均させるとともに、比較的温い補充液を速やかに平均温度まで降下させ、タンクの上下管層に温度差を生ずることがないようにし、右循環流を機枠の上方に生じさせることにより、販売用液の冷却温度の平均と、循環流の中途から分岐した吐出口から吐出液を、コツプ等により受け受ることを容易ならしめていること。
(2) 同(ロ)においては、温かい補充液が直接前記吐出口から流出して販売されるような構造上の欠陥を除去していること。
(3) 同(ハ)においては、随時、一定量の冷却した販売用液の自動販売を可能にしていること。
三 被告の製品の構造
被告の製造にかかる第一物件、第二物件及び第三物件の構造が、いずれも、原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
四 本件特許発明と第一物件との比較
(一) 前記当事者間に争いのない第一物件の構造と前掲二認定の事実とを対比すると、第一物件における
(イ) 機枠内の下方に冷却管を設けた貯液タンク(1)の下部に、吸込側を連通した常時運転の噴水ポンプ(2)により、タンク(1)内の液体を噴水パイプ(3)を通して上部の飾りポツトル内に噴水し、該噴水液は排水管(4)によりタンク(1)内に還流するようにし、かくして、絶え間なく還流する循環流を生じさせること、
(ロ) 噴水パイプ(3)の途中から導出管(8)を出し、この導出管(8)の中途に流量調節コツク(7)を取り付け、かつ、導出管先端に投入硬貨により電気的に導出管を一定時間開閉する電磁弁(5)を設け、吐出口(6)を機枠外に開口すること、
(ハ) 投入硬貨に応動する電磁弁(5)の作動と流量調節コツク(7)の調節により、所定量の液を吐出口(6)より放出することの各機構が、本件特許発明における前掲二の(一)の(イ)(ロ)及び(ハ)に、それぞれ、対応するものであることは、明らかである。
(二) 前掲二及び右(一)認定の事実に<証拠―省略>を参酌して、両者を比較すると、第一物件は、本件特許発明の要部をすべて具備し、その技術的範囲に属するものというべく、成立に争いない乙第四号証<省略>中のこれに反する意見は、次に説示するところに照らしてにわかに賛同し難く、他にこれを左右すべき証拠はない。すなわち、
(1) 本件特許発明における前掲二の(イ)と第一物件の右(一)の(イ)の各機構とは、実質的に、共通の構成を有するものと認めるに難くないこと。
(2) また、同二の(一)の(ロ)と右(一)の(ロ)の各機構とは、循環流からとる販売液放出の吐液口を機枠外に開口させている点において同一であるが、前者は、循環流の中途に定量放出装置を設けているに対し、後者は循環流から導出管(8)を出し、その管の先に定量放出装置を設けていること及び前者は、「適宜の定量放出装置」を要件とするに対し、後者は、流量調節コツクを施した一定時間作動する電磁弁を使用している点において、相違している。
本件特許発明においては、定量放出装置が循環流の中途にあり、これを介して吐液口に分岐するものであるから、定量放出装置内の吐出液は常時循環流により平均した温度に保たれるのに反し、第一物件においては、循環路から電磁弁まで離れているので、放出に際し導出管(8)に流入し、放出されないで残つた液は循環せず、貯液タンク(1)に戻らないから、時間の経過に伴つて漸次温度が上昇するであろうことは、被告の主張するとおり、両者の構造に鑑み明らかなところということができる。
しかしながら、この種の冷却液の自動販売機においては、冷却された液体を、そのままの状態で、吐出口から放出するのが望ましいことはその機能上いうまでもなく、したがつて、循環路から導出管を分岐させた場合には、分岐点から電磁弁までの導出管の容積は、液の放出を妨げない程度において、できるだけ小さいことがその目的にかなうものであることも、また、きわめて当然のことである。第一物件も、この種の冷却液体の販売機であり、しかも、前記構造からすれば、導出管に残存する液体は、放出される販売液の温度に影響を与える程のものではないと認められるので、右の差異は、設計変更の範囲を出ないものというべきであり、第一物件が右のような構造をとることにより、本件特許発明に比べて加工修理に容易であるとしても、そのことだけで前記認定を左右することはできない。
次に、特許発明が適宜の定量放出装置を要件としているに対し、第一物件においては、定量放出装置として流量調節コツクと電磁弁を使用しているが、流量調節のため流路に流量調節コツクを施すことは、本出願前周知の技術手段であり、硬貨の投入により一定時間開閉する電磁弁も、この種の自動販売機において、当業者により、定量放出装置として、慣用されている技術手段であることは、本件弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、後者の定量放出装置は、前者の「適宜の定量装置」に含まれるものと認めるのが相当である。
(3) 同二の(一)の(ハ)と右(一)の(ハ)の各機構とは、いずれも、投入硬貨により販売液放出作動体を作動させ、吐出口から一定量の販売液を放流するものであり、その構造を共通にするものというべきである。
五 本件特許発明と第二物件との比較
(一) 前記当事者間に争いのない第二物件の構造と前掲二認定の事実とを対比すると、第二物件における
(イ) 機枠内の下方に冷却管を設けた貯液タンク(1)の下部と、常時運転の揚液ポンプ(2)の吸込側とを、パイプ(3)で連通するとともに、ポンプ(2)の他方側にタンク(1)を貫通してタンク(1)上に達する導出管(4)を連設し、該導出管(4)のタンク内上方部に小孔(6)を設けること、
(ロ) 該導出管(4)上部に流量調節コツク(7)を取り付け、かつ、導出管(4)の先端に投入硬貨により導出管(4)を一定時間開閉する電磁弁(5)を設け、吐出口(8)を機枠外に開口すること、
(ハ) 投入硬貨に応動する電磁弁(5)の作動と流量調節コツク(7)の調節により、所定量の液を吐出口(6)より放出することの各機構が、本件特許発明における前掲二の(イ)(ロ)の及び(ハ)に、それぞれ、対応するものであることは、明らかである。
(二) 前掲二及び右(一)認定の事実に<証拠―省略>を参酌して、両者を比較すると、第二物件は、前記(一)の(イ)の機構においても、本件特許発明におけると等しく、販売用液の常時強制的循環流を形成し、その程度において若干劣るにせよ、本件特許発明と同様の作用効果をあげているものと認められるから、両者は、この点では技術思想上異なるところはないというべきである。すなわち、
(1)前掲二の(一)の(イ)と右(一)の(イ)機構との間には、前者において、冷却された販売用液が「貯液タンク↓管↓ポンプ↓管↓貯液タンク」の経路を辿つて強制的循環流を形成しているに対し、後者においては、販売用液は「タンク↓ポンプ↓ポンプ↓導出管及びその小孔↓タンク」の経路で流れることになり、導出管とタンクとの通路が管ではなくて小孔であるという点に前者と異る構造を有している。
被告は、この小孔について、第三物件は、導出管(4)の先端を電磁弁(5)で閉じたものであるため、揚液ポンプ(2)のモーターの作動に際し、空気抜きの孔を開けておかないと、モーターが空廻りして販売用液を押し上げることができないので、空気抜きとして径一粍ばかりの小孔を開けたのであり、本件特許発明のように、販売用液を常時強制的に循環させて冷却することを目的とするものではない旨主張する。
しかしながら、この種の冷却液の自動販売機においては実用上、需要者が硬貨を投入し、供給弁(第二物件では電磁弁(5))が開いたときは、数秒を出ないで通常の容積のコツプに液体を満たす程度の性能を有する揚水ポンプが使用されるのであり、第二物件のように、販売用液の供給時以外は、導出管(4)の先端が閉じられたままになつている構造において、右のような性能を有する揚水ポンプが常時運転されている場合には、導出管内の販売用液の液圧は高まり、小孔からタンク内に逸出せざるをえない。
もし、第二物件において、小孔(6)が被告主張のようなものであるとすれば、右のような揚水ポンプ(2)が常時運転されると、液圧の高まつた販売用液の逃げ路がないため、モーターの過熱によるポンプの故障と液体の温度の上昇を招来することになり、このように閉鎖された状態において、ポンプが常時運転されているにもかかわらず、右のような不都合を招来しないとすれば、そのポンプは、硬貨投入の際、液体をコツプに満たすのに相当長い時間を要するようなきわめて性能の低いものでなければならないこととなりそのいずれであるにしても、この種の冷却液の自動販売機としては、著しく実用価値の低いものとなる。第二物件は、被告が販売していた事実(このことは、当事者に争いがない。)に照らし、そのような価値の低いものではなく、通常の性能を有する揚水ポンプを使用し、しかも、前記のような不都合が生じない程度に、小孔(6)が、揚液ポンプ(2)により絶えず押し上げられている導出管(4)内の販売用液をタンク(1)へ還流させる流路の役目を果たしていると認めるのが相当であり、被告代表者本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は、にわかに信をおき難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(2) 同二の(一)の(ロ)と右(一)の(ロ)の各機構とは、循環流からとる販売液放出の吐出口(8)を機枠外に開口させている点が同一であり、後者の流量調節コツク(7)と電磁弁(5)とにより形成された定量放出装置が、前者の「適宜の定量放出装置」に含まれることは、前認定のとおりであるが、前者において、定量放出装置が循環流の中途に設けられているに対し、後者の定量放出装置は導出管の先端に設けられている点が相違している。しかしながら、右(1)で説示したように、後者においても、貯液タンク(1)からパイプ(3)、揚液ポンプ(2)、導出管(4)及びその小孔(6)を通つて貯液タンク(1)に還流する冷却液の流路は、循環流を形成しているものと認められ、右循環流から分岐した導出管の先端に定量放出装置を施した後者の構成が前者の設計変更の範囲を出ないものであることは、前説示のとおりである。
(3) 同二の(一)の(ハ)と右(一)の(ハ)の各機構とは、いずれも、投入硬貨により、販売液放出作動体を作動させ、吐出口から一定量の販売液を放流するものであり、共通の構造を有することは明らかである。
(4) 以上のとおり第二物件は本件特許発明の要部をすべて具備し、その技術的範囲に属するものというべく、前記乙第四号証の記載中のこれと反する意見は、右に説示するところに照らして、にわかに賛同し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
六 本件特許発明と第三物件との比較
(一) 前記当事者間に争いのない第三物件の構造と前掲二認定の事実とを対比すると、本件特許発明における二の(一)の(イ)の機構に対応する第三物件のそれとしては、「機枠内の下方に冷却されたタンク(A)内を二区画に仕切り、その一方を処理済みの販売用水を入れるタンク(1)とし、このタンク(1)の下部と常時運転の揚液ポンプ(2)の吸込側とをパイプ(3)で連通するとともに、ポンプ(2)の吐出側に連設した導出管(4)をタンク(1)内を通してタンク(1)上に到達させ、タンク(1)内において導出管(4)に小孔(8)を設けること」であると認められる。
(二) 前掲二及び右(一)認定の事実に前記乙第四号証、(証拠―省略)を総合して両者を比較すると、第三物件は、販売用水と濃縮ジユースの供給方法を分離したことにより、ジユースの保存性を高め、需要者の好みによりジユースの種類を選択しうることとした点において、本件特許発明の構成においては得られない作用効果をあげていることを認めうべく、これを左右するに足る証拠はない。すなわち、
(1) 本件特許発明において、循環路を流れる液体は、冷却せられた「販売用液」であり、その構成の一部のみを循環させることは、全然考えられていないが、これに反して、第三物件においては、冷却水と濃縮ジユースの供給方法が分離されており、前掲(一)の循環路を循環する液体は、販売用液ではなく、その一部分である冷却された「販売用水」であり、濃縮ジユースと混合して、はじめて販売用液となるものである。
(2) 第三物件における濃縮ジユースの供給方法としては、「他方の冷却水を上部透明ボツトル内に循環させ、かつ、透明ボツトル内に設けた四個の濃縮ジユースの各容器に流出管(9)を連設し、各流出管(9)の下部を前記導出溜(5)に連結し、かつ、各流出管(9)の中途に濃縮ジユースの流量調節コツク(10)と電磁弁(11)と電磁弁を設け、流量調節コツク(6)(10)の調節と電磁弁(7)(10)の作動により(流量調節コツク(6)と電磁弁(7)は、前記販売用水に関するもの)任意選択した濃縮ジユースを導出溜(5)において稀釈混合する」機構がある。これにおいては、濃縮ジユースの冷却は、ジユース自体の循環によるのではなく、冷却水の循環により行われ、濃縮ジユースの流路も、機枠の上部の透明ボツトルから液の重力により落下することによつて形成されるのみであり、濃縮ジユースの循環流は全然存在しないのである。
(3) 以上のとおり、第三物件においては、販売用液の一部分である販売用水のみが本件特許発明の強制的循環流を形成しているに止まり、その余の濃縮ジユースの部分は、それ自体循環流を形成することなく、その冷却手段も異つたものであり、これを販売用液全体として観察した場合において、本件特許発明の構成と共通のものとはいい難く、その作用効果も異るものであるから、この点において両者は技術思想上同一の範囲に属するものとはいえない。したがつて、第三物件は、本件特許発明の要部の一つを欠くものであるから、他の点を比較検討するまでもなく本件特許発明の技術的範囲に属しないものというべく、他にこれを覆えするに足る証拠はない。(三宅正雄、なお太田夏生及び佐久間重吉は転補につき署名押印することが来出ない。)